いよいよ「小網代の森」が、
7月20日(日)8:30から一般開放されます!
http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f530740/

森保全にご尽力された岸由二先生の著書『「流域地図」の作り方』では、
小網代の森が「流域」を理解するのに
最適な場所、全国的にも稀有な存在であると評価されています。

「自然を考えるときには、まず「流域」を知ろう!
川って面白くて大切だ」養老孟司

小網代は、「浦の川」という、長さ1.2kmの小さな川が刻んだ谷で、
もちろん流域である。そこには広さにして約70haの小さな森が広がっている。
この森は「流域」を理解するのには、最適な場所。
なぜなら、この流域は、浦の川の全体流域の部分ではなく、
ほぼすべてに相当するからだ。
森に降った雨が地下や地表を伝って川となり、河口に至って干潟をつくり、
やがて海に流れていく、という流域の姿を丸ごと見ることができるのだ。
…最源流から河口まで、人工物に分断されることのない
「完結した自然の流域」をここに見ることができる。
こうした場所は全国的にも稀有な存在である。
開発が進む現在、道路が横切ったり、住宅ができたり…
とすべて丸ごと残すということは難しいからである。
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…小網代の森で有名な生きものといえば、アカテガニである。
このカニは、小網代の森のすべてを暮らしの場所としている。
普段は森で暮らし、お産をするために干潟に行き、
生まれたばかりの子どもは1ヶ月近く海で暮らしたのち、干潟に戻り、森へ帰る。
…小網代の森は、浦の川を軸に完結した自然の流域であるがゆえに、
アカテガニはその自然の広がりを存分に活用し命をつないでいけるのだ。
これはもちろん、アカテガニだけではない。
源流から河口まで流域としてまとまりを持ち、
多様な自然環境を有する小網代の森は、
多様な生きものたちが命を育むことを可能にしている。
…そして、その多様性を持つ小網代の森の象徴する存在が、
アカテガニなのである。
ちなみに、小網代の森での「アカテガニ」のような存在を、
「アンブレラ•スピーシーズ」(天蓋種てんがいしゅ)という。
…保全する場所に一番深く広く存在する生きものを選んでアピールし、
その生きものの住む場所を含めて保護•保全することができれば、
その生きものの傘下で生きるほかのたくさんの生きものも守られる
という考え方である。

流域には、源流から河口までの流れに沿って、多様な自然環境が広がっている。
最源流の森、中流の低地、下流の湿原、河口の干潟。
これが川の基本形ともいえる配列である。
小網代の浦の川という小さな河川でも、
アマゾン川やナイル川などの大河でも基本は変わらない。
これに、尾根の広がりに沿った山や丘陵の緑や池の自然環境が加わって、
流域の自然を作りあげ、そしてそこには、それぞれの環境にすみ場所を持つ
多様な生きものたちが存在する。
生きものたちがまとまりのいい生態系(流域生態系)を形成しているのである。
水系を軸にして広がる流域地図で自分のいまいる場所を把握することは、
自分もそうした流域という生態系のまとまりの中で暮らしていると
実感する機会になると私は考える。
こうした実感は、私たちが地球規模で行われている水循環の中に暮らし、
またその循環の中で、多様な生きものたちと共存しているという
「仲間意識」の芽生えにもつながっていくことだろう。
そして、何よりも、私が「流域地図」を提唱するのは、
いまの地球という生命圏が直面している危機的状況に対するための
重要なツールと考えるからだ。

…いま、地球環境は危機的状況を迎えている。
地球温暖化が進み、大豪雨による巨大災害、海面上昇、
生物多様性の大崩壊等、行政地図ではなく、自然の地図、
「流域地図」で対応していかなければいけない。
…地球という自然とのつながりを意識した「すみ場所」の感覚を持つこと。
それがいま地球で起きている危機を克服する、
もっとも基本的な方法ではないかと私は考えるのである。
自然とのつながりを意識する
「すみ場所」の感覚を取り戻す方法こそが、「流域地図」なのである。
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